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陶芸家になるには

2010年7月27日(火)

 

うちの工房で働きたいと来る人に

「陶芸家になりたいので勉強したいです」なんて人が多かったりします。

陶芸家になるにはそりゃ大変ですよ。

免許や資格があるわけでもなし。

窯業学校出たって、美術大学の陶芸科でたからってなれるもんじゃありません。

技術はプロフェッショナルと言えども、世の中は需要と供給で成り立ってますから。必要とされなければ、存在することは許されないのです。

この場合の必要とは、ギャラリーや美術商、広告業界を含む「業界」にとって「必要」と言う意味です。
簡単に言うと商売になる人・一緒に商売できる人ということです。

陶芸家への一番の近道は窯業産地に産まれ
工芸一家の一員として地域の中で生きてゆくことです。

陶芸家の娘・息子がそのまんま陶芸家
このパターンが一番多くもっとも本流です。

もう一つ本流に「なんらかの不労所得や名声」のある者が道楽で陶芸を嗜み、元来のバックボーン相手に商売する。会社経営・資産家・業界人の親族らが世界旅行やらら留学やらなんやらの果てにとりあえず陶芸家になる。

※元政治家とか芸能人や実業家一族や貴族の末裔、長者番付に入る人物の隠し子

 

などなど。


有望な陶芸家などを集めた本などを読むとわかることですが
8割がたがこのパターンです。

しかしそんな事を言っても始まりませんよね。
産まれなんてのは選べるものじゃありませんからね。

簡単に整理して例えると
陶芸家を志す者のうちの2割である陶芸家の娘息子や
何かしら業界とつながりのある者や元政治家やタレントや道楽者が、

「陶芸家の8割を占め」

陶芸家を志すうちの大多数の8割の人々が

「残りの2割を奪い合う」

と言った感じでしょうか。

では、残りの2割の陶芸家の席を目指すものが取る手段はと言うと、

その中の8割の連中が「よくわからないまま」美大や窯業学校を出て単に作品を作りつつアルバイトに励んだり貸しギャラリーで展覧会を開くも赤字だったりという「夢を追う日々を」漠然と過ごしているのが現実です。「正直どうしたらいいのか分からない」と言ったところが本音なのです。

そして残りの2割くらいの連中が、
目的意識をはっきり持ち手段を考え抜きまい進してる。と言えると思います。

そんな中でももっともポピュラーなやり方が

美大や窯業学校を出たら多治見意匠研究所を卒業して

そして

((((人気作家に弟子入り))))して業界コネクションに加る。

です。

業界では、この多治見意匠研究所が唯一、陶芸家へ直結している「学校」と認知されてます。
他の学校出ても、ろくろ師や絵付師などの「職人」や陶芸教室の講師にはなれても陶芸家になるには厳しいと言われてます。

注意※美大をでて多治見意匠研究所がエリートコースとは言うものの
意匠研究所卒業者の中で陶芸家になってゆく者は、1割にも満たない。

その上で「作家に弟子入り」するわけですが
その中でも特に、ここが大事なのですが「人気作家に弟子入り」する。
これがすべてと言っても良いくらいにかなり大事なことです。

人気作家に弟子入りし、師匠を含めコネクションの人達に可愛がられ認めてもらう。
この一連の流れ無しに陶芸家になるには、正直申して「困難」です。
どんなに素晴らしい作品が作れようと、お茶の世界や金持ち顧客を抱えるギャラリストなどの「コネクションと良しな」に出来ない人は
そもそも存在すら認めてもらえないし、一時良くても落ちぶれて行くだけなのです。

 

逆の言い方をすれば、ここさえしっかり抑えておけばルーシーリーの模倣だろうと、伝統工芸だろうと、一旦途切れた焼き物の再発掘であろうと、唯一無二のオリジナリティを誇るであろう作品だろうとまるっきり問題ないのです。

サラリーマンやってても公務員やってても陶芸家やってても「出世する人」というのはここが違うのです。

既得権益層(上司・部長・師匠・ギャラリスト・広告業界・スポンサー)に如何に可愛がられ
自身の存在が既得権益層の利益(上司の点数稼ぎ・師匠の派閥の広がり・会社の利益・ギャラリストの取り分が如何に多いか)を生み出すのかが問題とされるのです。

私の妻も超のつく人気作家の元で働いてた過去があるのですが、取入ろうとする輩を次々に目の当たりにして
「これは私の望んでいる世界じゃない」と嫌悪感を抱きキャリアを積む事を断念しました。
 
そんな事で凹むような人は陶芸家には向いていないってだけの話なのですが。
つまりは、サラリーマンやってて出世出来ないような人が
もっと厳しい世界である美術や芸能業界で出世できるわけが無いのです。


「仕事なんて出来て当たり前」「良い作品作れて当たり前」

その上のプアスアルファが「評価の対象」なのです。

※人気作家の弟子でもやはり陶芸家に成れるのは「そこそこ物が作れて・よしなにできる人」らであって、弟子8割は何者にもなれず、作家に成るのは2割にも満たないと覚えておいてください。

そして、陶芸家を目指すであろう貴方に
気をつけて欲しいのが「そういった気持ちを確信犯的に利用する」業界でもある。
と言う事実です。これは陶芸以外の美術ジャンルでも同じ事なのですが。

貴方の目の前に夢をちらつかせて、しっぽりと搾取してやろうと言う輩がゴロゴロ居ます。
私自身が見てきた具体的なことを挙げれば、

メジャーデビューをチラつかせられて事務所に所属したは良いが
親会社の楽器店でプロ用機材をうん百万買わされ1年後には解雇、残ったのは借金。であるとか。

応募無料の公募店の作品返却時に公募展提携配送業者から「うん万円の美術梱包料金」を着払いで請求されたりとか。

ここで3年働けばプロフィールに記載できるなどと、業界的にはまったく意味の無いステイタスで釣っておいて
安い労働力として搾取するであるとか。

「陶芸家になるには」で検索したらamazonリンクが大量に張られたアフィリエイト目的の記事だったりとか(笑)

コスイのからがっつりまで挙げたらキリがありません。

これらの事で
人生を棒に振ることが無いように気をつけてください。

それ以外の方法で実際的なやり方を挙げると
以下のやり方があるのですが厳しい道を歩むことになるでしょう。

陶芸教室などで働きながら、もしくは単にアルバイトしながら
松本クラフトフェア・浜名湖アート・クラフトフェアなどに代表される
全国のクラフト市や陶器市で名前を売り業界に認めてもらう。

特に近年「松本クラフトフェア」は若手作家の登竜門と呼ばれており
ここに出展し、首都圏のギャラリーからお声がかかる
と言うパターンを経て一人前になってゆく作家が増えてます。
しかしこの場合、いわゆる「芸術的」なものよりも
「民芸・クラフトなど実用的な陶磁器」的な作風の方が認められやすい傾向があるようです。
こちらの方は先に挙げたやり方に比べれば、さほどドロドロしておらず実力本位な世界ですが。
ギャラリストとの付き合いが上手にこなせる人でないとやはり苦労するでしょう。

 

※ギャラリストというのは、作家と同等かそれ以上に自己顕示欲の強い人達です。「だからこそ頼りになる」のですが、その熱量に負けてしまう様では作家に向きません。そしてギャラリストの大半は、陶芸家を目指すあなた同様「8割はギャラリストの息子娘、なんかお金を持ってる道楽者」だったりします。

 

一方、「新聞が協賛してる公募展」に応募し実力を認められる。
※新聞が協賛してない公募展はデパートなどでの巡回展が無いので
ビジネスチャンスが極端に減る

などもベタなやり方ですが。
こちらは「芸術的」な物の方が評価されやすい反面

朝日陶芸展の休止など明るい話題の方が少ない感じですね。
公募展で入選しようが大賞を取ろうが
妻のパートで食べてますと言う作家が後を絶たないと聞き及びます。

 

※2016年加筆現在、

新しい潮流として脚光を浴びつつあるのが全入時代の大学生き残りの方策「美術大学の直営プロモーション」です。卒業展を大々的に開き有望と思える学生を強力プッシュして、入学生獲得の流れを作ると言う物です。SNSやまとめ系サイトでのステマを活用し成功を収めつつあるようです。

 

※2021年加筆現在、新たな知見を得ました。

窯業産地における跡継ぎ問題が表面化してきてます。人間国宝級の人すら跡取りが見つからないような状況が生まれており窯業産地と連携してる窯業訓練校や美大に跡継ぎのオファーがあるそうです。そういった話が実際に来てる人2名と話をしました。片方は、親の知り合いの人間国宝の取り巻きから国宝が認知症でどうにもならんと、主な販路である外国語が話せる息子にどうかと相談。そして人間国宝の跡継ぎやる自信がないとうちの工房で働いてみてからと逃げたがってる雰囲気。もう片方は、窯業産地の大学に直接そういった話が来たと、こちらの方は、そもそも有名になりたい一心で陶芸家目指してるとの話で棚から牡丹餅的に喜んでおり。そうでは無いルートにどう言った物があるのか視察的な雰囲気でした。どちらもまだまだ技術的に拙い素人同然の人達でしたが、そんなの問題ない雰囲気で急いでるそうです。どうやら販路を途切れさせたくないギャラリストらが「人間国宝らの意思」はさて置いて、どうにか跡継ぎを用意したがってるみたいな話です。「やる事はコピーだからそれで問題ない」のでしょうけど、うちではどちらもお断りレベルの人達でした。

 

今注目を集めてる人気作家「青木良太」などは、上に挙げたやり方が重複してたりもします。

そして、

陶芸家のうち2割に満たない人気作家と呼ばれる者達が陶芸家たちによる総収入の8割を得て
残りの8割の陶芸家が2割のシェアを奪い合う。

これを現実的な例えとして認知しておくと良いのと同時に。

以上の理由により、ほとんどの陶芸家が誰かから何かしらの「援助」を得て
どうにか生活を保ってるのが現状である。

それは「親」であったり「夫」であったり「妻」であったりが大半で。
どこぞの御仁がパトロンにつくなどと言うことはよほどの事が無い限り望んではいけません。
せいぜいマシな部類で言えば、退職後のポストを用意したい地方自治体や
税金対策目当ての企業のアート系の助成金であるとかでしょう。

陶芸家ですらもそうであるのだから

陶芸家を志す者がどういった現実を生きているかは
話さなくとも理解できるでしょう。


話をまとめます。

陶芸家を志す者のうちの2割である陶芸家の娘息子や元政治家やタレントが陶芸家の8割を占め、
陶芸家を志すうちの大多数の8割の人々が残りの2割を奪い合う。その中でも2割に満たない
人気作家と呼ばれる者達が陶芸家たちによる総収入の8割を得て残りの8割の陶芸家が2割のシェアを奪い合う。
以上の理由により、ほとんどの陶芸家が誰かから何かしらの「援助」を得て
どうにか生活を保ってるのが現状である。

これが陶芸家の「今」です。

ただいまほけきょ庵で夏のリゾートバイトで働いてる田中君は
美濃の伝統工芸一家に生まれ多治見市の窯業学校を出て
伝統工芸作家へ弟子入りして技術を磨きに磨いてきた正真正銘、陶芸家の金の卵です。

200年近く続く伝統工芸一家に産まれたばかりに持つ悩み・苦悩など。
少し行き詰まりを感じていた田中君は、
ほけきょ庵で1ヶ月働くことで何かをつかみたいと言います。

今後ほけきょ庵としては、クラフト技能を持った若者や
将来作家を目指すべく、働きながら頑張る若者の

現実的に働きながら夢を追える職場

と呼ばれる様にして行きたいです。

月々の収入以外にも、
公募展支援やクラフト展出店援助などもそうなのですが。

「現実的に作り・働き・生きる」

と言うことをスタッフ皆で学べる場として熟成してゆければなと。

今回の田中君の求人は、将来のそう言った
テストケースになるのだと、内心楽しみで仕方が無いのです。

最後に付け加えますと、話を鵜呑みにはしないで下さい。
これらに当てはまらないケースは無限にあります。


文章※武山よしてつ
2021年4月加筆